2025年、ThinkPad Xシリーズは誕生から25年という節目を迎えた。その記念すべき年に登場したのが「ThinkPad X13 Gen 6」である。
レノボ・ジャパン、大和研究所の開発担当者たちが集まり、この新モデルに込められた想いやこだわりを語った。
システムデザインマネージャーとして開発責任者を務めたThinkPad Platform Technology Director 大澤 治武、機構設計を担当したMechanical Development Project #2 Manager 橋倉 誠、そして熱設計を担当したThinkPad Thermal Development Manager 北村 昌宏。それぞれの専門領域から見たThinkPad X13 Gen 6の開発ストーリーは、単なる軽量化の物語ではなく、ThinkPadが長年培ってきた価値を守りながら新たな挑戦を重ねた軌跡そのものであった。
大澤は「Xシリーズはこれまでも持ち運びやすさを最優先に考えてきたが、今回は特に“1キログラムを切る”ことを至上命題に掲げた」と語る。軽量化は日本市場からの強い要望でもあり、営業担当者が出張や移動の際に常に持ち歩ける「相棒」としての存在を目指したという。
橋倉は「1グラムでも軽くするために、部品ごとに徹底的に見直し、周囲を巻き込みながら全体で軽量化を進めた」と振り返る。
北村は熱設計の観点から「ファンサイズを70%拡大しながら20%軽量化を実現した」と語り、軽さと快適性の両立に挑んだ。
こうして、ThinkPad X13 Gen 6は最軽量構成時約933g~を実現し、「どこにでも持ち運べる相棒」としての理想像を体現する製品へと仕上がっていった。開発者たちの言葉からは、単なる数値目標を超えた「ThinkPadらしさ」を守る強い意志が感じられる。
「ThinkPadとは何か」という問いに対し、3人の開発者はそれぞれの立場から答えた。
大澤は「お客様のパートナーとなるデバイス」と表現し、常にユーザーの使い方を想定して設計に臨んでいると語る。橋倉は「手に取ったときに“しっかりしている”と感じてもらえることがThinkPadの本質」と述べ、堅牢性と安心感を重視する姿勢を示した。北村は「快適に使える良き相棒」として、パフォーマンスや表面温度、ファンノイズといった見えない部分のバランスを整えることが使命だと語る。
三者の言葉に共通するのは、ThinkPadが単なる道具ではなく、ユーザーの仕事や生活を支える「相棒」であるという認識だ。見た目やスペックだけでなく、日常の使用感や安心感まで含めてThinkPadの価値は形づくられている。今回のThinkPad X13 Gen 6でも、その価値を損なうことなく、むしろ進化させることが求められた。軽量化という大きなテーマの裏には、こうした「ThinkPadらしさ」を守るための数々の工夫とこだわりが存在している。開発者たちが語る「ThinkPadとは」の答えは異なるようでいて、最終的には「ユーザーの相棒」という一点に収束していく。ThinkPad X13 Gen 6でも、その価値を損なうことなく、むしろ進化させることが求められた。軽量化という大きなテーマの裏には、こうした「ThinkPadらしさ」を守るための数々の工夫とこだわりが存在している。開発者たちが語る「ThinkPadとは」の答えは異なるようでいて、最終的には「ユーザーの相棒」という一点に収束していく。
ThinkPad X13 Gen 6の開発において最大のテーマは「軽量化」であった。大澤は「まずどれだけ小さくできるかから始めた」と語る。
筐体を小さくすれば重量も減る。そこから材料の選定や内部構造の最適化へと進んでいった。特に重要だったのは、マザーボードやバッテリー、ファンといった主要部品の配置である。熱設計の課題を解決しつつ、全体をコンパクトに収める必要があった。
大澤は「今回はカチッとはまった感覚があった」と振り返り、長年の経験の中でも特に完成度の高い設計だったと語る。
小型化は単に外形寸法を縮めるだけではなく、内部の構造を再設計し、部品同士の干渉を避けながら最適な配置を見つける作業の連続だった。熱設計の観点からは、ファンやヒートパイプの位置を工夫しなければならず、機構設計の観点からは、強度を保ちながら板厚を調整する必要があった。小型化と軽量化、そして堅牢性の維持という三つの要素を同時に満たすことは容易ではなかったが、開発チームは試作と検証を繰り返し、最終的に「小さく、強く、美しい」筐体を実現した。
一見すると「片手で開ける」ことは単純に思える。しかし橋倉は「どの構成でもワンハンドオープンを実現するのは非常に難しい」と語る。ThinkPad X13 Gen 6はCPUやストレージ、バッテリー容量、さらにはパネルなど構成のバリエーションが多く、それによって重量や重心が変化する。重心が変わればヒンジのトルク調整も変わり、片手で開ける際の感触に影響する。
橋倉は「どのモデルを選んでも同じように片手で開けられるようにするため、ヒンジの構造を緻密に計算し、試作を繰り返した」と振り返る。軽量化によって片手で持つ機会が増えるからこそ、ワンハンドオープンは必須の機能だった。
さらに、堅牢性を損なわずにこの機能を実現するため、材料や板厚の見直しも同時に行われた。ユーザーが自然に感じる「しっかり感」は、こうした見えない調整の積み重ねによって支えられている。
ヒンジの開閉角度や抵抗感は、ユーザーが最初に触れる体験の一部であり、ThinkPadの品質を象徴する要素でもある。だからこそ、橋倉は「片手で開ける」という一見小さな機能に徹底的にこだわった。
ThinkPad X13 Gen 6では、軽量化と同時に修理性の向上も重視された。橋倉は「裏ぶたを開けるネジの数を従来の5本から4本に減らし、開けやすさを高めた」と説明する。
ネジを緩めた後は片手で簡単に開けられる構造を採用し、組み立て性も改善された。さらに、バッテリー交換のしやすさにも配慮し、ユーザー自身で取り外しや交換が可能な設計とした。ネジが落ちないよう部品に追従する仕組みを導入するなど、細部にまで安心感を与える工夫が施されている。
軽量化を進めると、どうしても「壊れやすいのではないか」という不安がつきまとう。しかし橋倉は「堅牢性と軽量化を両立した製品として、日々の相棒として持ち歩いていただければと思う」と語る。
ThinkPad X13 Gen 6は、ユーザーが道具として思い切り使えるように設計されている。修理性の向上は、長く安心して使えることにもつながり、結果的にユーザー体験を豊かにする。
北村が担当した熱設計は、軽量化と快適性の両立という難題に直面した。従来は最高負荷時の冷却性能を重視して設計していたが、それでは実際のユーザー体験を十分に反映できない。
そこで今回は、動画の視聴やオンライン会議、Officeアプリの利用といった日常的なシナリオを基準に設計を進めた。北村は「設計を根本から見つめなおし、一つひとつ解析して削れる1グラムと残すべき1グラムを厳密にリスト化した」と語る。
ファンサイズを約70%拡大しながら約20%軽量化を実現したのは、その徹底した見直しの成果だった。ファンを大きくすることで、同じ風量でも回転数を下げられ、ノイズを抑えつつ冷却性能を高められる。ユーザーにとっては、静かで快適な操作感と安定したパフォーマンスが得られる。
さらに北村は「熱設計と軽量化の間で衝突もあった」と明かす。ファンを大きくしたい熱設計と、軽量化を進めたい機構設計やマザーボード設計の間で調整が必要だった。最終的にはマザーボードを小型化し、密度を高めることでスペースを確保。結果として軽量化と冷却性能の両立が実現した。
ThinkPadの象徴ともいえるキーボードは、今回も「変えない価値」として守られた。
大澤は「究極の使いやすさを追求してきたキーボードの打鍵感は、軽量化しても損なわないように最も注意した」と語る。どれだけ軽くなっても、ThinkPadらしい快適なタイピング体験は変わらない。キーボードはユーザーが最も長く触れる部分であり、ThinkPadのブランドを支える根幹でもある。だからこそ、軽量化の過程で他の部品を見直すことはあっても、キーボードの打感だけは妥協しなかった。
さらに今回のThinkPad X13 Gen 6では、新たに「ヒューマン・プレゼンス・ディテクション」を搭載。ユーザーがPCに近づくと自動でオンになり、離れるとオフになる機能で、利便性とセキュリティ、バッテリー寿命を同時に向上させる。大澤は「プライバシーを守りつつ、電池も長持ちする」と説明し、現代の働き方に即した機能であることを強調した。
ThinkPadは世界中で販売されているが、マーケットごとに求められる価値は異なる。大澤は「マーケットによって薄さや質感、画面サイズなど要件は異なる傾向にあり、日本は軽さを求める」と語る。
今回の「1キログラムを切る」という挑戦は、特に日本市場の声に応えたものだった。しかも、非光沢のLCDを搭載しながら軽量化を実現するのは難題だった。日本のユーザーは目の疲れにくさを重視し、光沢パネルよりも非光沢パネルを好む傾向がある。その要望に応えつつ、軽量化と堅牢性を両立させることは大きな挑戦だった。
橋倉は「部品を組み合わせて最終的に箱状になったときに“しっかり感”が出るように設計した」と語り、段ボール箱の例を挙げて説明した。
北村は「最高負荷時だけでなく、実際のユーザーシナリオを想定して熱設計を行った」と述べ、動画の視聴やオンライン会議といった日常的な使い方を基準に調整した。
こうした工夫の積み重ねにより、ThinkPad X13 Gen 6はグローバルな要求と日本市場のこだわりを両立させた製品となった。
ThinkPad X13 Gen 6の開発は、単なる軽量化の挑戦ではなかった。前世代比で約190gの軽量化を達成し、最軽量モデルで約933g~を実現した。
1キログラムを切るという目標の裏には、堅牢性、快適性、使いやすさといったThinkPadの本質的な価値を守り抜くための数々の工夫があった。ワンハンドオープンのための緻密な調整、削る1グラムと残す1グラムを見極めた熱設計、そして変わらないキーボードの打感。すべてはユーザーにとっての「良き相棒」を実現するための努力である。
大澤は「世界的には1キロを切ることは必須ではないが、日本のお客様のためにこだわり抜いた一台。ぜひ手に取って使ってほしい」と語る。橋倉は「堅牢性と軽量化を両立したので、壊れやすいから丁寧に扱う必要はない。道具として思い切り使ってほしい」と述べた。北村は「パフォーマンス、快適性、軽量化を妥協なく実現できた。自信を持っておすすめできる製品」と胸を張る。
ThinkPad X13 Gen 6は、ThinkPad X シリーズ25年の歴史を背負いながらも新たな挑戦を果たしたモデルであり、これからのモバイルPCの在り方を示す存在となるだろう。
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