ソリューション

製造や医療で注目の「エッジAI」、 産業用コンピュータにいま必要な技術とは

概要

IoTやAIの普及により、産業用コンピュータの世界も大きく変化している。その一つが、エッジAIの導入に向けた取り組みだ。製造業や医療/ヘルスケアといった分野でいま何が起きているのか。またどのような技術が求められているのか。



課題

製造・医療業界などのDX・データ活用の手段として注目されている「エッジAI」。しかし産業機器向けのエッジAIに対応するコンピュータは、一般向け製品より最新鋭のプロセッサの搭載が遅くなるケースが多く、求める性能の機器がすぐに手に入りにくいという課題がある。また、産業機器は長期利用が前提であり、保守対応も課題だ。

ソリューション

レノボのOEMソリューションは、AI対応の最新技術を搭載した複数のコンピュータ製品の長期供給を実現。デスクトップPCの「ThinkCentre」は3年、ワークステーションの「ThinkStation」では5年の長期供給モデルを展開している。保守サポート期間も5年間、条件によって最長7年までの延長が可能で、産業分野のニーズに応えたソリューションとなっている。

導入効果

エッジAIなどに求められる最新技術を早い段階から導入できるとともに、産業用機器としての製品展開に必要な長期供給を受けることが可能に。また、レノボのグローバルのネットワークにより、製品供給やサポートを世界中で受けられるメリットも。これらの背景から製造業においてAIを活用した検査システムや、自動車メーカーの生産ラインにおけるIoTデータコレクターなど、産業分野での採用が広がっている。


導入


IoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)といった技術の登場と進化、あるいは社会環境や産業構造の変化にシンクロするように、産業用コンピュータの世界でも今までにない変化が起きているようだ。

例えば製造業の工場では、最新の産業用コンピュータを活用したエッジAIの導入に向けた取り組みが進んでいる。工場のスマート化を目指す中で、高品質の製品を効率的かつ低コストで製造するとともに、変化する市場に対して柔軟に製造工程を変えていくには、IoT連携と併せてエッジAIは必須の技術になっている。また、産業用コンピュータのプロセッサの性能向上と相まって、エッジAIに対する期待が大きく高まっている状況にある。

医療やヘルスケアといった分野でも、IoT連携やエッジAIの活用に向けて産業用コンピュータに対してより高い技術を求めるようになっている。遠隔医療システムやウェアラブル端末による患者のバイタルデータ取得、手術ロボットなどの新たな医療機器が登場する一方で、病院内の機器をつなげるIoT連携を求める声も強い。さらに、患者の生命に関わるが故に安定性や信頼性の確保、規制適合も併せて実現しなければならない。

エッジAIの制約を取り払う新たな世代のプロセッサが登場

現在、産業用コンピュータを活用した製品やシステムの開発テーマで最も注目を集めているのは、現場側にある機器にAIを組み込むエッジAIだろう。

AIモデルの推論処理だけを考えれば、豊富な計算リソースを利用できるサーバやクラウドで実行する方が高い性能を実現できることは明白だ。しかし、現場側にある機器で推論処理の結果を活用してリアルタイムな制御を行う場合、通信で発生する遅延時間が大きな課題になってくる。また、サーバやクラウドと通信を行うということは、そのためのインフラとコストも必要になる。さらには、プライバシーやセキュリティに配慮したデータの取り扱いも求められる。レノボ・ジャパン OEM事業部 事業部長の川西宏和氏は「現場側にある機器でAIモデルの推論処理を行えばこれらの課題を解決できるからこそ、エッジAIが注目されているのです」と語る。

ただし、エッジAIには制約も多い。導入スペースや消費電力が限られる産業用機器にサーバレベルのプロセッサを搭載することは難しい。近年は、PoC(概念実証)として高性能のGPUを搭載するワークステーションを用いてエッジAIの推論処理を行う例が増えている。このPoCでは十分なAI処理性能を実現できていても、導入規模を広げていくPoCの次の段階で課題が表面化する。レノボ・ジャパン OEMエンジニアリング本部長の高橋忠志氏は「産業用機器として構築して横展開していこうとすると、高性能なGPUではROI(投資利益率)を確保できなくなってしまうのです」と述べる。

現在、エッジAIへの注目が高まっているのは、PC向けプロセッサのAI処理性能が大幅に向上しており、これまでのような制約に縛られなくなる可能性があるからだ。インテルなどが開発するPC向けプロセッサは、AI処理に特化した「NPU(Neural Processing Unit)」を組み込むようになっており、2024年から本格的な市場投入が始まっている。これらの新たな世代のプロセッサは、産業用コンピュータでエッジAIを活用する場合にも大きな力を発揮する。

長期の供給と保守サポートを提供するレノボのOEMソリューション

しかしながら、産業用コンピュータの場合、これらの新たな世代のプロセッサの搭載が一般向けに販売されるPCやワークステーションよりも遅れることが多い。これは、産業用コンピュータのベンダーが、長期利用が前提になることが多い産業用機器向けに、部品供給やサポートに対応する体制を構築しながら開発を進めていることに一因がある。

ただし、エッジAIを活用した最新の産業用機器を開発するためには、新たな世代のプロセッサを搭載する産業用コンピュータを早期に入手できる必要がある。このような需要に応えられるのがレノボのOEMソリューションである。

レノボのOEMソリューションは、レノボが販売するPCやワークステーションについて、長期の供給と保守サポートの提供で工場や医療向けをはじめさまざまな産業分野での利用を可能にするものだ。一般的なPCは、1~2年の販売サイクルでモデルチェンジするが、OEMソリューションの場合、デスクトップPCの「ThinkCentre」で3年、ワークステーションの「ThinkStation」で5年の長期供給モデルを用意している。「保守サポートの期間も5年間に延長されており、条件によっては最長7年までの延長が可能です」(川西氏)。

また、レノボのOEMソリューションは、サプライチェーンの観点でも優位性がある。PC市場に置いてトップクラスのシェアを誇るレノボは、プロセッサをはじめとする部品供給メーカーと強い関係性を持っている。このため、仮にコロナ禍のような事態が今後発生しても、より強固にサプライチェーンを維持できることが期待できる。

さらに、グローバルのネットワークにより、産業用コンピュータの供給やサポートを世界中で受けられる体制があることも特筆すべきだろう。例えば、日本国内で開発した産業用機器をグローバルに展開していく際に、海外でも不具合対応などのサポートを受けられるメリットは大きい。「FCCやCE、CCCなどの安全規格をはじめ各国の認証をあらかじめ取得しているので、お客さまがさまざまな仕向け地で事業を展開する際の手間を省けます」(高橋氏)。

最新製品が集まった「Lenovo Tech World Japan '24」

このようにレノボのOEMソリューションは、エッジAIなどに求められる最新技術を早い段階から導入できるとともに、産業用機器としての製品展開に必要な長期供給も可能という“いいとこどり”を実現しているわけだ。

インテルの「Core Ultra プロセッサー」を搭載するノートPC「ThinkPad」

2024年11月26日、レノボ・ジャパンは国内向けのユーザーイベントとして「Lenovo Tech World Japan '24」を開催した。同イベントの展示会場では、最新モデルをはじめ、OEMソリューションの製品が展示された。先述した“エッジAIなどに求められる最新技術”のショーケースとしてこれらを紹介しよう。

まず、関心が高まるAI関連では、インテルがAI処理の高速化に向けて発表した「Core Ultra プロセッサー(以下、Core Ultra)」を搭載するノートPC「ThinkPad」が展示された。NPUを搭載するCore UltraはAI処理性能が大幅に向上しており、CPUや内蔵GPUまで含めた消費電力当たりのAI処理性能は従来比で10倍以上に達するという。

今後のOEMソリューションの製品でも、Core UltraのようにAI処理性能を高めたプロセッサの搭載が進んでいくことになる。“AI PC”と呼ばれているCore Ultra搭載のThinkPadを、産業用機器の開発に活用してみるのもいいかもしれない。

エッジ環境に特化したファンレスの小型IoT端末となるのが「ThinkEdge」だ。展示では、「ThinkEdge SE30」を用いたカメラ画像による侵入者警報システムのデモが披露された。インテルのAIモデル開発環境「OpenVINOツールキット」により構築されており、同社製のプロセッサ上で効率よく動作するように最適化されている。今後、ThinkEdgeの後継機種にCore Ultraなどが採用されていけば、より高度なAI処理をファンレスで低消費電力の小型端末で利用できるようになる。

OEMソリューションでは、ワークステーションのThinkStationの引き合いも強い。レノボのワークステーションは信頼性や堅牢性に優れるだけでなく、拡張ボードと組み合わせた利用でも安定した性能を発揮しやすいという評価を得ているからだ。もちろん、Core Ultraの搭載も計画されており、AIを活用した産業用機器の開発ではさらに力を発揮していくことになるだろう。

高度なAIモデルを用いた検査機能に採用

ここからは、レノボのOEMソリューションの国内における採用事例を紹介しよう。

まず、ThinkStationは、板金加工機や金属加工機、3次元測定機、X線による非破壊検査装置などで、高度なAIモデルを用いた検査機能を実用化するのに採用されている。製造業のワークステーションの用途と言えばCADやCAEなどのツールを用いた設計業務が一般的だ。高橋氏は「ThinkStationの場合、こういった高い信頼性が求められる用途での採用も多くあります」と強調する。

その理由として挙げられるのが、米国と中国にある拠点で専任のエンジニアが対応するラボサービスによるサポート体制だ。例えば、金属加工機の採用事例の場合、他社製ワークステーションでは顧客の開発したシステムを正常に作動させられなかったが、レノボのOEMソリューションはラボサービスを含めたサポート対応によって問題を解決することができたという。

ThinkEdgeは、自動車メーカーの製造ラインの製造機器から各種の情報を吸い上げるIoTデータコレクターとして採用されている。この事例では、導入先の工場での実績を基に、今後はグローバルで採用を広げていく方針となっている。この他にも、PCIソリューションズがパトライトと共同で開発した、工事現場などで後方から接近する車両を作業員に伝える車両検知システムなどにも採用されている

PCIソリューションズ株式会社・株式会社パトライトの「ThinkEdge SE30」導入事例

コミュニティーの「Crosswave」も活用できる

レノボのOEMソリューションには、レノボ製品を扱うベンダーやソフトウェア開発企業が集うコミュニティー「Crosswave」があり、これを通じて各社が持つソリューションや情報の共有が行われている。同コミュニティーは、新しい技術やトレンドの紹介、参加企業が叶えたいソリューションを実現する方策を仲介するようなハブとしても機能する。

レノボがこのようなコミュニティーを用意できるのは、さまざまな産業分野に広がる多くのユーザーを抱えているからだろう。川西氏は「Crosswaveはグローバルに展開しているコミュニティーなので、日本国内の製造業のお客さまが世界展開を検討する際にも役立ちます。レノボのOEMソリューションをさらに活用するための仕組みとして活用していただければ」と述べている。

レノボのOEMソリューションの魅力は、製品のみならずグローバルでの供給、サポート体制やエコシステムにもある。産業用コンピュータを用いた製品を開発する際には、ぜひ相談してはいかがだろうか。


工場のスマート化や遠隔医療を推進

製造や医療で注目の「エッジAI」、産業用コンピュータにいま必要な技術とは

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