ソリューション
患者データを厳重に守りつつAIを活用、 ヘルスケア業界で注目のアプローチとは?
- 業種 製造
- キーワード IoT/Edge , OEMソリューション
- 製品カテゴリー PC , ワークステーション
概要
患者の病歴などの個人情報を扱うことが多く、クラウドの導入が進んでいないヘルスケア業界では、AIの活用も遅れている傾向にある。こうした中、デバイスに閉じた安全な環境で患者データを守りつつ、AIを活用できるアプローチが登場した。

課題
患者の病歴などの個人情報を扱うことが多く、クラウドの導入が進んでいない医療・ヘルスケア業界では、AIの活用も遅れている傾向に。デバイスに閉じた安全な環境で患者データを守りつつ、AIを活用できる環境の構築が今後の課題となっている。
ソリューション
AI/デジタルツイン時代に対応する性能と、高い堅牢性と信頼性を両立しているレノボのワークステーションは医療・ヘルスケア業界での採用も増加。全国対応の迅速なサポート体制を構築している他、OEMソリューションでは、長期間の供給と保守も実現。高精度画像診断や医療研修用のVRシステムなど、レノボのパートナー企業による関連ソリューションの提供可能に。
導入効果
那須赤十字病院(栃木県大田原市)では、レノボのパートナー企業であるリコーが開発したLLM(大規模言語モデル)をクローズドなデータ環境に構築し、患者の機微情報を保護しながら、病院全体で約3000時間の効率化に成功。neoAIはオンプレミス環境で構築したAIチャットbotを医療機関向けに提供している。これらはNVIDIAのGPUを搭載したレノボのハードウェアでオンプレミス環境を構築するもので、医療・ヘルスケア分野特有のニーズに応えたデータ環境の構築を実現している。
導入
ヘルスケア業界でAI(人工知能)の活用が進まないことが課題になっている。これは、患者の病歴など機微な個人情報を扱うことが制約となり、AIの活用で不可欠とされるクラウドの導入が進んでいないためだ。この状況を打破する一手として期待されているのが「ハイブリッドAI」である。
ハイブリッドAIとは、AIリソースの全てをデータセンターやクラウド上に置くのではなく、スマートフォンやPCなどのエッジも活用することでより最適にAIを処理する技術である。これまでAIの処理はクラウド上で実行するのが当たり前だったが、AI技術の進化とエッジ側のハードウェアの性能向上が相まって、ハイブリッドAIの導入はより容易になりつつある。
エッジとクラウドを組み合わせるハイブリッドAIであれば、デバイスに閉じたセキュアな環境で患者データを厳重に守りつつ、生成AIやエージェントAIといったAI機能を積極的に取り込んで患者ケアなどに活用することが可能となる。今後、ヘルスケア業界におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)を進めていくために必要不可欠となるのがハイブリッドAIといえるだろう。
このハイブリッドAIの実用化と普及に向けて協業しているのが、「ポケットからクラウドまで(From Pocket to the Cloud)」というコンセプトを掲げ、スマートフォンやクライアントPC、ワークステーション、サーバなどのハードウェアを展開するレノボと、AI向けのソフトウェアとGPUやネットワーク機器などのハードウェアによってAIの進化をけん引するNVIDIAである。
両社は2025年5月20日、東京都内でセミナー「Lenovo OEM Solutions Innovation Forum'25~AIが切り拓く次世代ヘルスケア」を開催。レノボの高性能デバイスとNVIDIAの最先端テクノロジーの融合によって実現できる医療サービスやヘルスケア体験を紹介するとともに、実機を用いたデモンストレーションなども披露した。
NVIDIA:ヘルスケア業界を重視、フィジカルAIで変革を生み出す
次々に変革を巻き起こしているAIだが、今後に向けてはどのような進化の過程にあるのだろうか。「生成AI時代のNVIDIAヘルスケアソリューション」と題するセッションに登壇したエヌビディア ヘルスケア開発者支援 シニアマネージャーの山田泰永氏は、画像認識AIから生成AI、エージェントAI、そしてフィジカルAIへと進化を遂げていくAIの潮流を示した。
NVIDIAは、GPUのみならず、このAIの進化を支えてきたアクセラレーションライブラリの「CUDA」や、さまざまなアプリケーションフレームワークの開発などで重要な役割を担ってきた。現在は、さらに上位のソリューションとして、生成AI向け推論マイクロサービスの「NVIDIA NIM」、カスタム生成AI構築のフレームワーク「NVIDIA NeMo」、特定用途向けのサンプル実装となる「NVIDIA Blueprint」などを展開している。山田氏は「NVIDIAは、今では半ばソフトウェア会社のような存在になっており、学習済みAIモデルの開発から、さらには複数のAIモデルを組み合わせたサンプルアプリケーションの開発まで手掛けています」と語る。
NVIDIAが考えるAIの進化の潮流。画像認識AIから生成AI、エージェントAIと進み、フィジカルAIに到達する 提供:エヌビディア
そしてNVIDIAが、最重要分野の一つに位置付けているのがヘルスケア業界だ。「全世界には16万の病院、40万の手術室、1400万の病床、800万の医療機器があり、80億人の患者がいます。そこにフィジカルAIの導入が進むことで、医療の在り方は大きく変わっていくと私たちは考えています」(山田氏)。
医療ロボットに搭載することを目的に開発されたフィジカルAIのプラットフォームとして「NVIDIA Holoscan」を展開している。専用エッジハードウェアの「IGX」またはレノボなどのワークステーション上で、低遅延のリアルタイムAI処理を実現する医療機器向けに特化されたソフトウェアスタックだ。
既に採用事例も登場している。医療ベンチャーのMoon Surgical が、HoloscanとIGXをベースに開発したAI手術支援プラットフォームもその一つだ。手術用ロボット「Maestro」に搭載され、内視鏡手術における臨床ワークフローを統合することで、手術室の効率を高めるとともに手術時間を短縮する。
「Moon Surgicalは、Holoscanの充実した開発環境やサンプル実装を徹底的に有効活用してMaestroの開発コストと期間を約30%短縮しています。プロトタイプ開発からわずか15カ月でFDA(米国食品医薬品局)の認証を取得し、まずは米国と欧州を皮切りに世界の広範な地域への展開を図るべく準備を進めています」(山田氏)
エージェントAIの領域でもヘルスケア業界の取り組みが進んでいる。米国のABRIDGEが開発した患者とのコミュニケーションを支援するシステムは、患者からヒアリングした症状を音声認識でテキスト化/要約し、電子カルテへの記載まで自動的に行える。同様にレントゲンなどの医療画像についてもAIで画像認識し、所見をまとめることが可能だという。
山田氏は「今後もわれわれは、エージェントAIやフィジカルAI、ロボティクスの進化にさらに注力し、ヘルスケア領域の変革を支えていきます」と意気込みを示した。
レノボ:医療機関でも導入しやすい、エッジAI基盤を国内生産
AIの進化にとってハードウェアとソフトウェアは両輪であり、この両輪がしっかり連動して回ってこそ、ヘルスケア領域にも新たなユーザー体験を提供できる。「医療現場に最適!レノボ・ワークステーションのご紹介」と題するセッションに登壇したレノボ・ジャパン WS&クライアントAI事業部長の小林直樹氏は「レノボは妥協のない堅牢性と信頼性を備えるハードウェアを提供しています」と強調した。
その背景には、国内拠点の大和研究所(横浜市西区)において、ThinkPadブランドで知られる小型/軽量/堅牢なノートPCの開発を30年以上にわたって続けてきた歴史がある。そこで培われた品質に対するこだわりは脈々と受け継がれており、世界複数拠点の開発センターで実施されている品質検証試験の項目は実に約2000種類に及ぶ。
手のひらサイズのワークステーションである「ThinkStation P3 Tiny」
加えてレノボのワークステーションが誇るのは、AI/デジタルツイン時代のコンピューティングを支えるプラットフォームとしての優れた冷却性能とパフォーマンスである。「Flex Performance Cooling」による冷却機構は、静音性能とストレスフリーを可能とするオウルファンなどの独自技術が強みだ。「第三者機関が行った故障対応率調査からも、レノボ製品は導入後3年間にわたり、業界平均の故障率を下回っています」(小林氏)。
さらに小林氏が言及したのが、米沢事業所(山形県米沢市)で国内生産されている2機種のワークステーションである。1つは、手のひらサイズのワークステーションである「ThinkStation P3 Tiny」。もう1つの「ThinkStation P3 Ultra」も、容積3.9リットルと小型ながら、「NVIDIA RTX 4000 SFF ada」世代のGPUをサポートしており、タワー機並みの拡張性を備えているとのことだ。なお、両機種は国内生産であることから最短5営業日での短納期も実現している。
また、レノボ傘下となったNECパーソナルコンピュータのノウハウを生かして、問い合わせ対応から部品管理、修理に至るまで完全に国内でサポートできる体制を整えている。オンサイト修理サービス拠点は125カ所、当日オンサイト用パーツ保管拠点は13カ所を展開しており、最短1日での修理が可能だ。
小林氏は「広告/映像制作の業界では、これらレノボのワークステーションを複数台組み合わせたクラスタとクラウドを一体化して運用するハイブリッドAIの事例が出ており、使い勝手や性能、コストなどの観点で高い評価を得ている。ヘルスケア業界にも、このハイブリッドAIのメリットを提案したい」と訴える。
レノボOEMソリューション:ハードウェアの長期供給と保守で信頼構築
「ヘルスケアにおけるレノボのOEMビジネスの提案と価値」と題したセッションに登壇したレノボアジアパシフィック OEMソリューションズ アジア・パシフィック統括本部長のリッキー・チャン氏は、ヘルスケア領域のイノベーションを支えるレノボのOEMソリューションのアプローチについて語った。
レノボのOEMソリューションが特に重視しているのが、PCやワークステーションをはじめとするハードウェアの長期供給と保守サポートだ。「信頼できるパートナーと共同し、信頼できるソリューションを提供し続けることが、ヘルスケア領域における非常に重要な要件となります」(チャン氏)。
Asiabotsが開発したエージェントAIのソリューション「AIアンバサダー」
ワークステーションのOEM長期供給モデルであれば、販売サイクルが3年半から最長5年となっており、保守サポートの期間も5年から条件によっては7年まで延長することが可能だ。長期運用が可能なOSであるWindows 11/10 IoT Enterprise LTSCの工場プリインストール出荷などにも対応している。
スマートホスピタルの実現に向けても、レノボのOEMソリューションは大きく貢献している。チャン氏は「例えば高精度の画像診断機器や高齢者介護施設向けのスマートベッド、医療研修用のVR(仮想現実)システムなどを手掛けるパートナーのソリューションをクロスウェーブパートナープログラムというエコシステムを通して提供することも可能です」と説明する。さらに、エージェントAIとしてAsiabotsが開発したソリューション「AIアンバサダー」を提供しており、医療機関向けでは来院者の受付対応をはじめさまざまな用途で利用を広げているという。
リコー/neoAI:医療機関向けにオンプレミスのLLM環境を提供
今回のセミナーでは、レノボのパートナー企業からの事例紹介も行われた。リコーが挙げたのが、那須赤十字病院(栃木県大田原市)における生成AI活用の事例である。リコーが独自開発したLLM(大規模言語モデル)を中核とする「オンプレLLMスターターキット」により、クローズドな環境で生成AIを活用できるようになった。結果として、患者の機微情報を保護しながら、医師が退院サマリー作成に費やす時間を約50%削減し、病院全体で約3000時間の効率化に貢献したという。
neoAIは、独自開発のAIチャットbotのオンプレミス版「neoAI Chatオンプレミス」を医療機関に適用するメリットを紹介。入力データと参照データの両方で機密データと非機密データが混在する医療機関において、LLMをオンプレミス環境で運用することによってユースケースが大きく広がるとしている。
なお、リコーとneoAIのいずれの事例も、NVIDIAのGPUを搭載したレノボのハードウェアによってオンプレミス環境を構築することを想定している。これらは、一般的な医療機関でも手の届く範囲内のハイブリッドAIの現実的なソリューションとして準備されていることにも注目していただければ幸いだ。
今回のセミナーは、大学病院や、電子カルテ/PACS(医療用画像管理システム)のベンダー、内視鏡など医療機器メーカーから多くの参加があり、ヘルスケア業界の関係者にレノボの存在感を強く示すこととなった。レノボ・ジャパンは、セミナーに登壇したNVIDIAやリコー、neoAIにとどまらず、ヘルスケア業界におけるAIの普及に向けて技術開発やパートナー連携を力強く推進していく構えだ。
クラウド×エッジでAIを適切に処理
患者データを厳重に守りつつAIを活用、
ヘルスケア業界で注目のアプローチとは?




