導入事例

日本電気株式会社

エッジで特徴量データ抽出を高速化するには 混雑や逆光に弱いウォークスルー顔認証、高精度と高速処理をどう実現する?

概要

ホテルやコンサート会場などの入退場、小売店の決済などで利用が拡大しているウォークスルー顔認証。しかし混雑時に処理が追い付かずに滞留が起きたり、逆光条件に弱く設置環境に制約があったりと、課題も多い。これらを解決する方法とは?



課題

顔認証技術で業界トップクラスのシェアを持つNECが、新たなウォークスルーソリューション「Bio-IDiomエッジソフトウェア」を開発。従来のソリューションで採用していたエッジデバイスでは、データ抽出などの処理性能や顔認証以外の汎用的なアプリケーションの組み込みが難しいという点などが課題だった。

ソリューション

新ソリューションはよりソフトウェア面の改善とともに、より高性能なエッジデバイスに対応。推奨エッジデバイスとして、レノボ・ジャパンのエッジIoT端末「ThinkEdge SE30」を選定した。

導入効果

「ThinkEdge SE30」は小型かつファンレス設計のため信頼性が高く、また多様な接続ポートを搭載しているため、従来サービスの置き換えにも広く対応可能に。また、インテル® vPro® プラットフォームを搭載しており、内蔵GPUで高速なデータ処理が行えるため、混雑時の認証速度の改善にも貢献。WindowsベースのOSにより、顧客ニーズに応じて顔認証以外のさまざまなアプリケーションの組み込みにも対応できるようになった。


導入


生体認証の応用が広がっている。スマートフォンのロック解除の他、オフィス、マンション、ホテル、コンサート会場などの入退場、一部の小売店での決済などがその例だ。IDカードとは違って盗難や紛失の恐れもない。 

生体認証には、指紋認証、虹彩認証、静脈認証などの技術があるが、利用者視点で最も利便性の高い方式が顔認証である。認証機器に指を当てたり手のひらをかざしたりする必要がなく、ごく短時間の立ち止まりまたはウォークスルーで認証が完了する。

ただし顔認証方式にも課題があり、精度を落とさず高速処理することが難しい。混雑時に処理が追い付かずにゲート前で滞留が起きたり、逆光条件に弱く設置環境に制約が出てきたりなどの課題も指摘されていた。

優れた顔認証技術で業界トップクラスのシェアを持つNECは、これらの課題を解決した「Bio-IDiomエッジソフトウェア※」を2024年11月に発売した。従来のウォークスルーソリューションに対して顔認証の高速化を図るとともに逆光などの厳しい条件にも対応し、ウォークスルーにおいて滞留のない認証性能を実現している。

※エッジソフトウェア……エッジデバイス上で動作するソフトウェア

顔認証の高速化や逆光補正などを盛り込む

Bio-IDiomエッジソフトウェアは、その名のとおりエッジ用の顔認証ソリューションだ。オフィスの入退場ゲートやマンションのエントランス部に設置したエッジデバイスにインストールして使用する。2020年7月に販売を開始した顔認証エッジ「NEC AI Accelerator」の後継に当たる。

NEC バイオメトリクス・ビジョンAI統括部 プロフェッショナルの三井知行氏は「NECでは、会議室の入り口に設置する立ち止まりタイプの製品など、さまざまな顔認証ソリューションを提供しています。今回発表したBio-IDiomエッジソフトウェアは、入場ゲートなどで使うことを想定したウォークスルー用の製品です」と語る。なお、NEC AI Acceleratorはエッジデバイスとソフトウェアを一体にしたシステムだったが、Bio-IDiomエッジソフトウェアは、顧客のニーズに応じて要件を満たすハードウェアから選択できるようにソフトウェア製品として提供される。

Bio-IDiomエッジソフトウェアの最大の特徴は、多人数でもスムーズなウォークスルー顔認証を実現している点だ。NEC AI Acceleratorよりも高性能な推奨エッジデバイスとの組み合わせで、多人数が利用する際にも滞留を起こりにくくしている。推奨カメラを接続する場合には、逆光時における顔認証の速度低下も抑制でき、撮影条件によらず高い認証性能を維持できる。

また、1台のエッジデバイスに対してIPカメラを最大4台まで接続できるようになった(従来は1台)。例えば、オフィスの入退場システムであれば、入場側と退場側にそれぞれカメラを1台設置する構成の場合、1台のエッジデバイスで2レーンまで対応できる。これにより、設置スペースや導入費用の削減につなげられる。

さらに従来と比べてより高性能になっている推奨エッジデバイスには、各種入退室システムとの連携機能を集約できる。このため、従来は必要だったデータの中継や接続を行うための中間サーバを省けるため運用コストの削減が可能だ。加えて、エッジを一元管理し、遠隔での構築や監視を行えるサービスも並行して検討を進めており、導入時や運用面でのサポートも強化される予定だ。

NEC本社ビルでウォークスルーの滞留感の解消を確認

Bio-IDiomエッジソフトウェアでは、カメラに人が近付くと撮影映像の中から人物を認識して、顔の特徴量データを抽出する。特徴量はネットワークを通じて顔認証クラウドに送信され、あらかじめ登録してある特徴量と照合して人物を識別し、情報をBio-IDiomエッジソフトウェアに返し、その結果に基づいて入退場システムのゲート開閉などが行われる。カメラ画像を顔認証サーバに送信せず、特徴量データも認証処理後に消去しているので、顔認証システムに求められるプライバシーへの配慮が可能な仕組みになっている。

このプロセスで顔認証のボトルネックとなっていたのがエッジ側での特徴量データ抽出である。処理量が多いため、例えば1人だけなら問題ないが、複数人がカメラに映ったときに従来製品では処理に遅れが発生することがあった。

NEC バイオメトリクス・ビジョンAI統括部 プロフェッショナルの今井義朗氏は「従来も1人ずつであればウォークスルーは実現できていましたが、出社時間帯や昼休みの前後などの混雑時間帯に処理が間に合わず滞留が発生していました。実際に従来システムを設置していたNEC本社ビルのゲートでも従業員からの指摘が挙がっていました」と説明する。また、人物が逆光になった場合、複数回にわたって特徴量データ抽出を試みる必要があり、性能の低下が生じるため、顔認証導入できる箇所が限定されることも課題だった。

これらの課題に対して、エッジデバイスと分離したソフトウェア製品として再定義することで解決したのがBio-IDiomエッジソフトウェアだ。NEC AI Acceleratorでは、ソフトウェアと一体で提供するエッジデバイスにシステム制御用のARMプロセッサと顔認証用のAIアクセラレータを組み込んでいたが、2020年発売ということもあり性能的に制約が出ていたという。また、ベースOSがLinuxであったため、顔認証以外の汎用的なアプリケーションの組み込みも難しかった。

ソフトウェア製品となったBio-IDiomエッジソフトウェアは、より高性能なエッジデバイスを利用できるようになったため、1台でカメラ4台分の特徴量データ抽出に加え、逆光の環境下でも遅延を起こさずに顔認証する仕組みを搭載できた。さらに、エッジデバイスのシステムをWindowsベースとすることで、入退室管理システムの集約やオプション提供するなりすまし防止機能の組み込みの対応も可能になった。

NEC本社ビルでは、従来の顔認証システムからBio-IDiomエッジソフトウェアをベースにしたシステムに更新するなどの先行実証を行っている。これまで課題になっていた滞留感が緩和されたことで従業員から好評を得たことや、逆光への対応力を強化したことで、今後導入規模を広げていく方針である。

小型でファンレスの「ThinkEdge SE30」を推奨

そして、Bio-IDiomエッジソフトウェアの進化を支えるエッジデバイスとして推奨されているのが、レノボ・ジャパンのエッジIoT(モノのインターネット)端末「ThinkEdge SE30」である。

外形寸法は179mm×88mm×51.5mmとコンパクトで、しかもファンレスで構成されているため信頼性が高い。メインメモリは8GBまたは16GB、ストレージ(SSD)は256GBまたは512GBで、外部インタフェースとしてRS-232ポート×2、USB-C、USB-A×2、Thunderbolt 4、Display Port、HDMI、Ethernet RJ45×2などを備える。

OSは長期サポートが受けられる「Windows 10 IoT Enterprise LTSC」がプリインストールされている。Windowsベースなので、顔認証以外のさまざまなアプリケーションをニーズに応じて組み込むこともできる。

レノボ・ジャパン OEM事業部 事業部長の川西宏和氏は「ThinkEdge SE30は国内の組み込み系のお客さまから、高さ約5cmと小型でファンレスである点が高く評価されています。また、こういった小型のエッジ端末は売り切りでの販売が多いかと思いますが、当社ではオンサイト保守も提供していますので、安心して使っていただけると考えています」と語る。

ThinkEdge SE30には幾つかのサブモデルがある中で、NECが推奨エッジデバイスとして選択したのが、最大動作周波数4.1GHzの「インテル® vPro® プラットフォーム」を搭載するモデルだ。レノボ・ジャパン OEM事業部 ビジネスデベロップメントマネージャーの荻健太郎氏は「顔認証システムを運用する周辺環境に合わせた動作温度範囲などの性能要件に合わせて、幅広いラインアップの中から選定していただきました」と述べる。

ThinkEdge SE30を推奨デバイスとして選択した理由について、NECの三井氏は「NEC AI Acceleratorのエッジデバイスと同等サイズでファンレスであり、従来システムとの置き換えがしやすいこと」「レノボによる保守サービスや長期サポートが提供されていること」といった理由を挙げる。今井氏は性能面について、インテル®vPro® プラットフォームの内蔵GPUを用いて特徴量データ抽出などの高速化が図れている点を強調した。

なお、ThinkEdge SE30は自動車メーカーの製造ラインの他、ピザ店での具材盛り付け忘れを画像認識で確認するシステム、魚の養殖管理システムなど幅広い用途で採用されている。直近では、国内の医療/介護用ベッド分野で国内トップクラスのシェアを誇るパラマウントベッドの介護施設向けの見守り支援システム「眠りCONNECT」の採用事例がある。

世界トップクラスの高精度な顔認証のグローバル展開も構想

Bio-IDiomエッジソフトウェアは、例えばマンションのエントランスに設置した場合、荷物を両手で持った状態でも開錠が可能になるため住民の利便性が高まり、資産価値の向上にもつながるだろう。オフィスのゲートに設置すれば、混雑時にも待ちが発生せず、従業員に無用なストレスを与えずに済む。NECはこうした価値を事業者などに提案していく考えだ。

NECの三井氏は「いずれはグローバル展開も考えています。その際に、レノボからのグローバル供給が可能なThinkEdge SE30はエッジデバイスとして重要な役割を果たすと期待しています」と期待を込める。

レノボ・ジャパンの川西氏も「レノボはエッジソリューションの事例をグローバルに紹介する『クロスウェーブパートナープログラム』を提供しています。グローバル展開する際には、ぜひご協力できれば」と声をそろえる。

NECの顔認証技術は世界的にもトップクラスの精度を誇ることで知られている。その力を十全に引き出すレノボ・ジャパンのThinkEdge SE30との組み合わせによって、さらなる応用の拡大が期待される。


お客様プロフィール

お客様

日本電気株式会社

所在地

東京都港区芝五丁目7番1号 

設立

1899年(明治32年)7月17日


日本電気株式会社

エッジで特徴量データ抽出を高速化するには
混雑や逆光に弱いウォークスルー顔認証、高精度と高速処理をどう実現する?

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