導入事例
国立大学法人 北海道国立大学機構 北見工業大学
概要
北見工業大学は、地域社会の課題解決をAI技術で加速するため、学内の研究推進センターや研究ユニットを横断的に結ぶ「AIコモンズ」を設立し、大規模データ分析を支える新たなITインフラを整備しました。競争入札を経て導入した「Lenovo ThinkStation PX」を基盤とする「AI 駆動型統合データ解析システム」を構築。すべての教員が公平・平等にGPUリソースを利用できる環境を実現し、研究室間の格差を解消しています。

課題
学内で利用できるITリソースに研究室間の格差が生じており、予算の限られた教員が、GPU搭載マシンを独自に導入するのは困難だった。また、複数の研究テーマを有機的につなぐIT基盤も未整備だった。
ソリューション
学内4つの研究推進センターと2つの研究ユニットを横断的につなぐ「AIコモンズ」の設立を機に「AI駆動型統合データ解析システム」の構築に必要な予算措置が講じられた。競争入札を経て、1筐体あたりGPUを3基搭載した「Lenovo ThinkStation PX」を導入した。
導入効果
AI 駆動型統合データ解析システムの運用開始にあたり、公平・平等なGPUリソース利用を実現するスケジューラーを学内で開発し、研究室間の格差を解消。北海道国立大学機構全体での活用推進も視野に入れ、共同研究や広範なアプリケーション開発による地域社会への貢献を目指している。
導入
AI大規模データ分析に必須のGPU環境研究室間でITリソース利用の格差が課題に
北海道のオホーツク地域に位置する北見工業大学。伝統的に寒冷地研究に強みを持ち、近年では冬季スポーツの研究も盛んです。
同学 学長補佐 情報処理センター長・AI Commons長 教授の升井 洋志氏は、「北見市の名を世界的に広めたカーリングもその1つです。人間の勘だけに頼らないデータサイエンスの視点から、戦術・戦略やチーム力の強化に資する研究を進めています」と話します。
こうした取り組みを背景に2024年2月、「AIコモンズ」は設立されました。これまで学内で個別に活動してきた4つの研究推進センター(地域循環共生研究推進センター、冬季スポーツ科学研究推進センター、オホーツク農林水産工学連携研究推進センター、地域と歩む防災研究センター)を横断的につなぎ、さまざまな社会課題の解決を図ることを目指すものです。そして情報処理センターが、このAIコモンズのITインフラ全体を支える役割を担っています。
ただ、従前の同学のIT環境に目を向けると、そこには多くの課題を抱えていました。
「現在は、例えば画像認識やLLM(大規模言語モデル)の強化学習を行うにあたり、主要なオープンソースのプログラムやライブラリなどを比較的簡単に入手できる時代となりました。しかし、本学にはそうしたAI技術を活用した大規模なデータ分析を実施するうえで欠かせない、高い処理性能を備えたGPU搭載マシンが整備されておらず、複数の研究テーマを有機的につなぐ基盤となるシステムも構築できていませんでした」(升井氏)
特に深刻だったのは、研究室間の格差です。各企業との共同研究や受託研究にあたっているベテラン教員は、独自にGPU搭載マシンを導入することが可能ですが、予算に余裕のない新任の若手教員は研究が滞ってしまいがちです。当然この格差は、各研究室に所属する学生や大学院生の教育にも影響を及ぼすことになります。
今回のAIコモンズの設立こそが、こうした同学のIT環境に大きな変革をもたらす契機となったのです。
「オホーツク地域特有の課題解決に向けた共創を加速する『AI 駆動型統合データ解析システム』の構築に必要な国の予算措置が講じられ、GPU搭載マシンの導入が可能となりました」(升井氏)
「誰もが使えるGPU環境」を目指しAI 駆動型統合データ解析システムを構築
AI 駆動型統合データ解析システムを構成するITインフラの調達は、2024年7月に競争入札によって行われました。この結果、導入が決まったのが、8台の「Lenovo ThinkStation PX」です。1筐体あたりGPUを3基(NVIDIA RTX 5000 Ada 32GB)搭載したラックマウント可能なワークステーションで、合計24基のGPUクラスターを構成することで、大規模なデータ分析のワークロードにも柔軟に対応します。
「2024年度内に調達可能な最新GPUを、できるだけ安いコストで、可能な限り多く搭載したいという私たちの意図を、競争入札の仕様書に盛り込みました。最高性能のGPUを少数導入する選択肢もありましたが、AIコモンズでは複数の教員が公平にリソースを利用できることが重要です。そこで、性能と価格のバランスを重視し、より多くのGPUを搭載してリソースプールとして充実させる方針を選びました」(升井氏)
加えて同学が、今回の調達で重要な要件としたのが、維持管理費の低減です。
「単年度予算で調達した機器について、翌年度以降にかかる保守費は本学の負担となるため、コスト削減は死活問題なのです。その点、PCの延長線上で日本全国をカバーする保守サポート体制を整えているレノボから提示された価格感は、他社と比べて大きな優位性があったと推察しています。また私自身、独自にレノボのサーバーを導入・運用してきた経験があり、その安定した稼働実績から高い信頼を寄せていました」(升井氏)
公平・平等なリソース利用を実現すべくユーザーフレンドリーなスケジューラーを整備
サーバーラックに収められたThinkStation PX。19インチのサーバラックにキッチリ収まり、1850W PSUを2本搭載することで、高負荷時にも余裕ある運用を安定的にサポートできるのも魅力だ。
Lenovo ThinkStation PXは、予定どおり2024年2月までに導入を完了。これを受けて同学 情報処理センターは同年3月より、AI 駆動型統合データ解析システムの内製での構築に着手しました。
この設計において、最も重視したのは「公平・平等なリソース利用の実現」です。
「実は今から20年くらい前にも、全学で共同利用が可能なHPC(ハイパフォーマンス・コンピューティング)のインフラを整備したのですが、そのリソースを一部の教員が長時間にわたって占有してしまうケースが頻発しました。この時の反省もあり、今回のAI 駆動型統合データ解析システムについては、そのリソース利用による恩恵を、すべての教員があまねく享受できるようにしたいと考えました」(升井氏)
具体的には学内ポータルのWebフォームから予約を受け付け、リソース利用を許可するスケジューラーを構築しました。
「合計24基のGPUクラスターに対する各教員のニーズを考慮しつつ、『この時間帯はフルに利用が可能』『この時間帯は1ノード(3基)分のみ利用が可能』といった、柔軟かつ平準化されたGPUリソース利用を支えていく、ユーザーフレンドリーなスケジューラーづくりに注力してきました」(升井氏)
本格的な運用フェーズに移行し北海道国立大学機構全体での活用を推進
上述したスケジューラーの開発も2025年10月までに完成し、AI 駆動型統合データ解析システムはいよいよ本格的な運用フェーズへと踏み出していきます。具体的なユースケースの1つとしては、LLMを応用した大学紹介システムの構築も検討しています。
「過去に発表された論文や出版物をすべてAIに学習させることで、本学にどんな分野の研究者がいてどんな活動をしているのか、対外的にも積極的な情報発信を行う仕組みを整備していきます」(升井氏)
また、地域社会の課題解決に向けては、農業データの予測分析などを検討しています。オホーツク農林水産工学連携研究推進センターや特異な自然景観の発掘・予測研究ユニットが蓄積してきた膨大なデータを活用するものです。
「気温、降水量、積雪量などの気象条件データを分析し、その後に吹く海風の強さを予測して地域の農家に提供することで、例えば薬剤散布や収穫の最適時期を決定するなど、生産性向上に寄与することが可能となります」(升井氏)
もちろん研究室間の格差解消は、全学から期待が集まる重要テーマです。
「本来、最も精力的に研究成果を生み出していかなければならない若手教員が、必要なITリソースを活用できずにいるという矛盾を、AI 駆動型統合データ解析システムで払拭していきます。また、卒業論文や修士・博士論文の執筆にあたる学生や大学院生の研究にも役立てもらえるよう、各自のPCから容易にAI 駆動型統合データ解析システムにアクセスできる環境を整備していきます」(升井氏)
さらにその先に見据えているのが、北海道国立大学機構全体としての活用推進です。
「AIコモンズ自体は本学の独自組織ではありますが、同時に本学は地域社会の一員でもあり、北海道全体の活性化と成長に寄与していかなければなりません。その意味でも同じ北海道国立大学機構に所属する小樽商科大学や帯広畜産大学との共同研究は必須であり、AI 駆動型統合データ解析システムを活用した広範なアプリケーション構築を推進していきたいと思います」(升井氏)
AIコモンズを支える今回のLenovo ThinkStation PXを基盤としたITインフラ整備は、「AI研究・活用の民主化」への大きな一歩として地方大学発のイノベーションを促進し、地域社会の発展に重要な役割を果たしていくことになりそうです。
お客様プロフィール
お客様 |
国立大学法人 北海道国立大学機構 北見工業大学 |
|---|---|
URL |
|
所在地 |
:北海道北見市公園町165番地 |
設立 |
:1960年(北見工業短期大学として設置) |
概要 |
北海道の北東部、オホーツク地域に位置する国立の工業大学として、工学部(地球環境工学科、地域未来デザイン工学科)および大学院(博 士前期課程、博士後期課程)を設置。2022年4月に小樽商科大学、帯広畜産大学とともに北海道国立大学機構として法人統合され、「実学の知 の拠点」として地域社会の発展に貢献していくことを目指している。 |
国立大学法人 北海道国立大学機構 北見工業大学
地域の課題解決を支援するAIコモンズのGPU基盤に
高性能ワークステーション 「Lenovo ThinkStation PX」を採用




