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必要だと分かってはいても、取り組みが進まない学校現場のICT事情

2020年度から本格実施される新学習指導要領では、情報活用能力の育成やプログラミング教育などICTの活用が重要視され、各教育機関ではそれらを実施するためのICT環境整備が求められています。しかし、実際には学校現場のICT整備は進んでおらず、たとえ機器が導入されていたとしても活用が広がらない課題を抱える教育機関も多いです。いったい、何が原因なのでしょうか。その背景や課題を紐解きながら、これからのICT環境整備に何が必要なのかを探ります。

すべての教育機関は、ICT環境整備に着手する時期に来ている

2018年4月より、情報活用能力の育成やプログラミング教育の必修化が盛り込まれた新学習指導要領の移行措置が始まりました。これまでICTの取り組みは先進校や先進地域だけの話と見ていた教育機関や関係者も、いよいよその取り組みを本格始動する時期にきました。新学習指導要領を実施するために必要なICT環境とは、どのようなものでしょうか。まずは国の方針からおさらいしていきましょう。

文部科学省では2017年12月に「平成30年度以降の学校におけるICT環境の整備方針について」を公表し、新学習指導要領を実施するためのICT環境整備について具体的な内容を示しました。翌2018年には同方針を受けて、「教育のICT化に向けた環境整備5ヵ年計画(2018~2022年度)」が策定され(下記図参照)、“学習者用コンピュータを3クラスに1クラス分程度整備”、“大型提示装置・実物投影機100%整備”など、明確な目標水準が発表されました。またこれらを実現するための必要な経費として、2018〜2022年度まで単年度1,805億円の地方財政措置が講じられています。

学校におけるICT環境整備について
出展:文部科学省「教育のICT化に向けた環境整備5ヵ年計画(2018〜2022年度)」

新学習指導要領の実施に向けてICT環境を整備するにあたり、必ず押さえておきたいポイントがあります。これまでも文部科学省はICTを活用した情報活用能力の育成を進めてきましたが、“教科のねらいを学ぶ過程で身につくとよい”という位置づけに留まっていました。しかし、新学習指導要領においては、総則の中で情報活用能力が「学習の基盤となる資質・能力」と位置づけられ、また「各学校において、コンピュータや情報通信ネットワークなどの情報手段を活用するために必要な環境を整え、これらを適切に活用した学習活動の充実を図る」ことと明記され、さらに一歩踏み込んだ内容となっているのです。これにより、すべての教育機関と教師が子供の情報活用能力の育成に取り組まなければならず、そのためのICT環境整備は必須となりました。

答のない問題に対応するために、情報活用能力の育成は必須

そもそも、なぜ新学習指導要領では情報活用能力の育成が重視されているのでしょうか。それにはまず、子供たちが生きる未来の社会について、正しい時代認識を持つことが大切です。

第4次産業革命とも呼ばれる今、これまでICTとは縁がなかった産業でICT化が進み、AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)、自動運転やドローンなど、技術が著しく進化しています。このような時代においては、将来何が起きるのか、先の予測がむずかしく、加えて、今の子供たち世代は「人生100年時代」に突入するなど、激動の時代を生きていかねばなりません。一方で、今の子供たちの生活スタイルも変化しています。「デジタルネイティブ」と呼ばれ、家族全員がいつでもどこでもインターネットに接続できるモバイル端末を所有し、今後はスマート家電やロボットが生活レベルでさらに普及する未来が見えてきました。

子供たちの生きる未来の社会

このような時代を生きていくために必要な力は何でしょうか。よく教育現場では「生きる力」や「21世紀型スキル」といったキーワードが挙げられますが、そのどれをとっても、根底にあるのは、“答のない問題に対してどう対応していくか”ということを見据えていることです。情報活用能力も、その“答のない問題”に対応するために必要なスキルのひとつであり、もはやICTの利用なくして、激動の時代を生きていくことは難しいことを意味しています。実際に、子供たちが生きる未来の社会では、たとえどんな職業に就こうとも、どんな人生を歩もうとも、もはやICTと無関係では生きていけないでしょう。

未来の社会で生き抜くために必要な力

ちなみに、このような教育方針を進めているのは、なにも日本だけではありません。海外においても日本同様に、子供たちが将来必要とされる資質を掲げ、早くから情報活用能力の育成を重視しています。そのためのICT整備・活用も進んでおり、パソコンやタブレットを文房具と同じように使う教育機関が多いのです。それに対して日本はというと、授業においてパソコンやタブレットを使っている生徒の割合はOECD加盟国で最も低い水準にあります。これだけ子供たちの生活に浸透したICT機器も、日本の学校においては、まだまだ“特別な存在”であり、当たり前のツールとして使える環境にはないということです。

─ 国語・数学・理科の各授業においてコンピュータを使用している割合

※OECD生徒の学習到達度調査(PISA2009)「デジタル読解力調査」を元に作成
※「使用している」というのは「週に0分~30分」「週に30分~60分」「週に60分以上」を合算したものです

なぜ、ICT環境整備や活用が進まないのか

日本の教育現場におけるICT環境整備は、これまでも取り組みが進められてきましたが、実際はあまり進んでいないのが現状です。2018年3月に文部科学省が発表した「平成28年度 学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果(概要)」(資料2)によると、教育用コンピュータ1台あたりの児童生徒数は5.9人。前年度の6.2人と比較すれば、その数値は改善傾向にあるものの、まだまだ十分ではありません。特に新学習指導要領が始まってICTを活用した協働学習やプログラミング教育を実施するとなると、6人に1台のコンピュータでは足りないのは明らかです。

─ 学校における主なICT環境の整備状況の推移

  • 教育用コンピュータ1台当たりの児童生徒数

    ①教育用コンピュータ1台当たりの児童生徒数

    ※「教育用コンピュータ」とは、主として教育用に利用しているコンピュータのことをいう。教職員が主として校務用に利用しているコンピュータ(校務用コンピュータ)は含まない

  • (参照)教育用コンピュータのうちタブレット型コンピュータ台数
    (参照)教育用コンピュータのうちタブレット型コンピュータ台数

    前年度を上回る台数の増加、3年で約5倍

    ※「タブレット型コンピュータ」とは、平板状の外形を備えタッチパネル式などの表示/入力部を持った教育用コンピュータのことをいう。
    ※教育用コンピュータの総台数は、2,027,273台。

学校における主なICT環境の整備状況の推移
出展:文部科学省「平成28年度 学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果(概要)

教育現場におけるICT整備や活用が遅れている原因は何でしょうか?

ひとつには、予算の確保が難しいことが挙げられます。単年度1,805億円の財政措置が講じられたといっても、この予算は地方自治体が自由に使える「地方交付税」であるため、他の使途に財源が回されることもあります。そのため、予算を確保するには、学校教育にICTが必須であると納得のいく説明が求められます。一般的には、数値で示される学力向上にICTが有効であると、客観的なデータを用いて説明できることが求められるようですが、そのようなデータが十分でないために、予算化につながりにくいという課題があります。

一方で、晴れて予算化してICT環境が整備されたとしても、各学校ではICT機器の稼働率が上がらず、埃をかぶったままという課題もあります。このようなことが起こる大きな理由のひとつに、教師が授業でどのようにコンピュータを活用していいのか分からないことが挙げられます。というのも、教師自身がそのような授業を受けた経験もなければ、児童生徒がコンピュータを使って学ぶ場面を見たこともないため、授業のイメージを持つことが難しいからです。

ICTならではの学びを理解し、ICT環境整備で気をつけたいことは?

しかしながら、すでに新学習指導要領の移行措置も始まっており、これらのICT環境整備の課題を乗り越えていかなければなりません。

そこで考えておきたいことは、これらの課題を乗り越えるに値するICT活用をめざすことです。単純に、紙をデジタルに置き換えるような使い方ではなく、ICTの効果が発揮されやすい、ICTがあるからこそ実現できる新しい学びに挑戦することが重要になってくるでしょう。そうでなければ、“ICTがなくてもできる”といった論調に陥りがちだからです。

ICTを学習に活かすメリットは、時間と場所の制約を取り払い、いつでも、どこでも、学ぶ環境を提供できること、また豊富な学習コンテンツが利用できることです。これによって、教師の指導スタイル、児童生徒の学びの選択肢が増え、学びの機動力が高くなります。具体例を下記に挙げてみます。

  • 校外学習、課外学習、理科の実験・観察などの際に、カメラ付きのタブレットPCで写真や動画を記録することで、生教材を活かしたレポートの作成や発表が容易にできる

  • クラウド型の授業支援ツールを用いて、グループ学習の続きを各家庭で行う、家庭にいながら宿題を提出する、病欠や部活動の遠征などで欠席しても学習内容を常に共有できるなど、学校と家庭の学習に連続性を持たせることができる

  • 適応学習のためのツールを用いて、学習者の習熟度に合わせた学習内容を提供できる

  • 高校における「JAPAN e-Portfolio」の取り組みを皮切りに、小中学校でも今後注目度が高まるであろう、学習者の学んだ内容の蓄積が可能になる

  • 分からないことをいつでも調べることができる環境によって、学習者の主体性を高めることができる

ICTを活かした学習のイメージ

一方で、このような学習環境を実現するにあたり、ICT導入時には気をつけたいこともあります。一例として、コスト削減を重視しすぎて、端末の台数を絞ったり、安いだけで十分なパフォーマンスが出ない端末を購入したりしてしまうことです。端末の台数については、理想は各クラスに常設されていることですが、予算が限られている場合は、最低でも1クラス分41台は確保したいところです。

というのも、41台あれば、1クラスで1人1台の個別学習、グループ学習が可能だからです。また予算に余裕がある場合は、校舎のフロアごとに端末を整備するなど、教師がいつでも使いやすい環境をめざしましょう。ほかにも、起動の早さ、携帯性、バッテリーの持ちなども考慮することが大切です。

さらに端末の機種選定の際に考えておきたいのは、キーボードです。新学習指導要領で実施される大学入試改革では、CBT(Computer-Based Testing)によるパソコンを用いた記述式の出題が決まっているため、キーボードの操作に慣れておく必要があります。こうしたスキルをどのように身に付けていくのか、ICT環境整備を行う際は考慮することが重要であるといえるでしょう。

学校はこのままでいいのか。教師のトライ&エラーで学びに変化を

これまで述べてきたように、教育現場においてICTの取り組みを進めることは簡単なことではありません。いくら新学習指導要領で情報活用能力の育成が重視されるといっても、教師から見れば、ある日突然パソコンが渡されて“明日から授業で使ってください”と言われるのですから、やはりハードルは高いでしょう。

とはいえ、今、取り掛からなければ、地域格差が生じたり、子供たちの進路に影響したりするなどリスクもあります。そして何よりも、子供たちが生きる未来の社会において、情報活用能力を身に着けていないことは、これからの情報化社会で居場所を見つけられず、孤立してしまう恐れもあります。そのためには、やはり学校での学びが変わっていくことが重要です。これまで、ICTの取り組みを進めてきた先進校も、多くのトライ&エラーを実施しながら、現場で使えるICT活用を築いてきました。まずは、教師がトライ&エラーをすることから始め、少しずつ取り組みを進めてみてはどうでしょうか。そうした教師の姿を見ることも、子供たちにとっては良い学びになるはずです。

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