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特集

ワークステーション性能比較

製品開発がより高度化し、同時に高品質・短納期まで求められる昨今、その設計のためのソフトウェアの種類や機能も多様化して、ますます重要性も大きくなっている。なかでも3DCADとAIは数少ない確実に効果が得られるDXツールとして、最優先で導入または推進すべき定石である。今回ベンチマークに使用した3DCAD「SOLIDWORKS 2025」はユーザー数も多く幅広い機能を持っていることから、ハードウェア構成が導入推進にはとても重要である。本記事では、新旧5種類のワークステーション(A~E)の構成と、SOLIDWORKS 2025のベンチマーク結果をもとに、どのスペックがどのパフォーマンス項目に影響を及ぼすのかを分析・解説する。

巻末にはみなさん自身でAIと対話するためのプロンプトも用意してあるので、使い慣れたAIツールがある方はそれを使って、まだAIを使ったことが無い方はまずはChatGPTに貼り付けてみていただきたい。ハードウェアの最適構成を考えながら最新AIの賢さや対話による次世代の気づきの得かたを体感してみてほしい。

性能比較するワークステーション

スペックの一覧と外観を以下に示す。各項目をスペック単体で見たときに比較的有利なものを緑、不利なものを赤、その中間を黄色に色分けしてある。

このスペック表だけを見てわかるポイントをあげると、まずは最新スペックで3DCAD向けに良さそうな構成のA,Bがある。この違いはCPUがi7かi5かのグレード違いのみである。

CはCPUの世代こそひとつ古いが、スペックは最高レベルだ。特にGPUはランクを上げていて、HDDも積んでおり、解析やグラフィック系の意図をもって組んでいるように見える。

なお、BとCはThinkStation P3 Ultraという幅87mm×高さ202mm、奥行き223mmのとんでもなく小さな筐体にハイスペックが詰まった機種である。イメージしやすい容量で言うと3.9Lという、スペックだけを見たら信じられないサイズ感だが、この省スペースであるという機能は、多数の図面や資料や試作品を広げる設計者にはかなりうれしい、スペック表には載らない機能のひとつだろう。

一方、AのThinkStation P2 Towerは幅170mm×高さ315.4mm×奥行376mmと一般的にイメージするデスクトップ型ワークステーションのサイズ感だが、このメリットは豊富なラインナップと拡張性である。これはデスクトップ型を選ぶ理由そのものであり、高いスペックと拡張性による安心感とコスパが得られる可能性が高いだろう。求めるスペックがピッタリとハマれば小さな筐体のP3 Ultraは魅力的だが、もしそうでなければThinkStation P2Towerになるだろう。求めるスペックによって機種選定の入り口で大きく分岐することになるとすると、やはり最適構成を考えておくことは重要だ。

対して、D,Eは本当に設計室にありそうな数世代前の3DCAD向けデスクトップ型ワークステーションだろうか。GPUはそれなりに良いものを使用している。もしかしたら、メモリやGPUは途中で強化しているのかもしれない。このような経緯で構成されることもよくあるパターンだ。当時はHDDも一般的だったので(EはHDDのみ)、D,Eはとてもリアルなスペックと言える。実際に現在これに近いワークステーションをお使いの方も多いだろう。それくらいあるあるの構成ではあるが、私のまわりではすでにかなり交換が進んでいる世代でもある。もちろん2DCADの用途では何の問題もないが、3DCADでかつ、比較的部品点数の多い製品を扱う企業では、Eはとくに課題や不満が募るスペックだろう。

さて、全体的には、メモリ32GBというのはひとつの目安として良いのだろう。新しくワークステーションを選定する場合も、少し古くなったワークステーションのメモリを増強する場合も、目指す容量としてバランスが良い値である。

GPUに関しては、その進化が先行しており、すでに3DCAD側が必要とするスペックを超えているので、あまりハイスペックにする必要はないと筆者はアドバイスしている。よって、Cは特定の目的があるものと想像するし、他2種類のGPUに黄色と赤で比較的有利/不利を分けたが、いずれも十分なスペックを持っており、すべて緑で表示するべきかとも迷った。すなわち、それくらいこの5機種はGPUの性能が十分高いという印象である。

他にも、見る人によってさまざまな見立てや印象があるだろう。是非一度このスペック表だけから3DCAD性能の良し悪しやベンチマーク結果を想像してみてほしい。

ベンチマーク条件

各ワークステーションの構成として以下の違いが挙げられる。

  • CPUの世代、グレード

  • コア数

  • 最大ブーストクロック

  • ストレージの種類

  • GPUのモデル

  • VRAM

ちなみに、WindowsのバージョンによるCAD性能の向上は無いと判断して良い。また、今回はメモリを32GBに統一しているため、メモリ以外の要素に注視することができるだろう。

そして、ベンチマークを実施したのは、数多くの企業で設計部門の3次元設計立上げとそのためのワークステーションの選定を行ってきた筆者であり、SOLIDWORKSによるベンチマークは2019バージョンから過去何度も行っている。

※SOLIDWORKS 2019-2021をLenovoのハイエンドモバイルワークステーションで比べてみたら大変なことになった件
 (https://www.cadjapan.com/topics/feature/report_workstation/2021/210806_01.html)
※SOLIDWORKSで大規模アセンブリやるのにこんなに小さくていいの!? ~Lenovo最新おすすめデスクトップ機の性能とは~
 (https://www.lenovojp.com/business/special/181/)

SOLIDWORKSはその機能の多さから、他の3DCADと比べるとやや重いことは多くのユーザーが知るところである。そのため、部品点数の多い工作機械や自動機メーカーの場合は、とくにワークステーションのスペックを上げたり最新情報に敏感だ。もしみなさんがこれらの業界にいて、SOLIDWORKSを使っているにも関わらず、誰もワークステーションのスペックに詳しい人がいなければ、少し危機感を持つ必要があるかもしれない。

ベンチマークにおいて注意しておきたいのは、過去記事にもあるし一般的なベンチマークでもそうであるように、ベンチマークツールのバージョンが異なると値を比較することができない点である。今回は最新のSOLIDWORKS 2025を使用しているため、皆さんの目の前にあるPCやワークステーションと値を比較する際には、同じく2025バージョンでの計測値で比較する必要がある。新バージョンがリリースされると、(みんな本音は面倒だが)CADの様々な新機能を確認する必要もあるので、是非これを最新の2025バージョンを試していただく機会にしていただきたい。

SOLIDWORKS Rxを実行すると、数分間CADが自動で動くことでベンチマーク結果が計測される。SOLIDWORKSユーザーがハードウェアの評価をする際には最も一般的で最も信頼性の高いツールである。評価結果は各処理のタイムとして出るので、タイムが短いほどその項目の処理能力が高いマシンということになる。

後述のベンチマーク結果は右図の1回のベンチマーク結果3回の平均値である。
ここで、ベンチマーク結果の各値の意味と、その項目に影響が大きいハードウェア側のスペックについて筆者の知識から整理して以下に示す。

  • グラフィックス=CAD操作時の表示レスポンス → CPUシングルコア性能×GPU性能

  • プロセッサ=CADの処理速度→CPUシングルコア性能 × メモリ転送速度

  • I/O=ファイルオープン時間/保存時間:ストレージ規格    ×ネットワーク通信速度

  • RealViewパフォーマンス=CAD内リアル表現性能:GPU性能

  • Simulation=構造解析時の計算性能:CPUマルチコア性能   ×ストレージ規格

なお、巻末のプロンプトを使った2025年現在で一般的なAIモデルの回答は、これとは異なるものになりがちである。例えば「グラフィックス」はGPU性能にしか触れない回答をするだろう。しかし、3DCADにおいてはほぼすべての機能にCPUシングルコア性能が大きく影響するのは常識である。最新AIと人間のどちらをどう信じるかや、よりAIの性能を引き出すプロンプトはなにか、などを考えるきっかけになる差のひとつだ。

ベンチマーク結果から見た各機種の特徴

まずはベンチマークの結果を見てもらいたい。この結果と各マシンのスペックを見比べながら、認識のずれがないかや新たな気づきを得ていただき、次の買い換えの際の最適構成を練っていただけたらと思う。

以下、ベンチマーク結果から見た各機種の特徴・見方と、そこから得られた結論・方針を示す。

A:ThinkStation P2 Tower (i7-14700, 20 Core, 5.4GHz / M.2)

高性能最新世代CPUによりプロセッサ(15.4 s)やSimulation(15.8s)などほぼすべての項目で最速の結果を示している。

特筆すべきは、ストレージはA~Dまで同じM.2 SSDであるのにも関わらず、CPUの世代の違いによってI/Oの項目でA,BとC,Dで大きな差がある点である。プロセッサの項目にこのような2グループ化が見られないことから、単純なCPU処理性能ではなく、世代によるデータ転送速度の違いが影響していると思われる。

結論:CPUは世代が効く。処理速度だけではなく、ファイルオープン時間/保存時間にも効く。


B:ThinkStation P3 Ultra(i5-14600, 14 Core, 5.2GHz / M.2 )

Aと同じM.2ストレージおよびGPU構成だが、CPUがi5でコア数も少ないためプロセッサ(17.1 s)およびSimulation(17.3 s)などの処理性能でAよりもやや劣る。

前述のI/O(15.5 s)はAと同一で、RealView(17.3秒)およびグラフィックス(17.6秒)もほぼ同等の結果となっている。

結論:少しでもプロセッサ性能やSimulation性能をあげたければCPUのグレードを上げるのは有効。


C:ThinkStation P3 Ultra (i7-13700, 16 Core, 5.2GHz / M.2+HDD )

CPUはi7だが、最新世代のAのi7-14700と比べると性能はやや劣り、プロセッサの項目は18.5 sとなっている。

GPUはRTX A2000でVRAMが12GBと充実しているものの、RealView(19.0 s)やグラフィックス(18.4 s)はCPU性能の影響を受けてA,Bよりむしろ遅い結果となってしまった。

結論:3D CADにおけるグラフィック系の性能はGPUだけでなくCPU性能も大きく影響する。処理や機能によってはGPUだけのランクを上げても効果が得られないケースもあるので、意図を持ってGPUのランクを上げる場合は、本当に効果かあるのかベンチマークなどでの検証が重要。


D:ThinkStation P330 (i7-9700, 8 Core, 4.7GHz / M.2 )

CPUの世代が古く、最大ブーストクロックも一段低いため、プロセッサ(27.1 s)とSimulation(22.5 s)でA,B,Cのグループと比べて大きな差が出ている。

M.2ストレージ搭載でメモリ32GBながら、CPU世代・性能が影響し、Aの解説で触れたとおりI/Oの項目も一段低速となっている。

結論:CPUの世代はCPU単体の処理速度の向上分以上に多方面に影響するため最重要。


E:ThinkStation P330 (i5-8500, 6 Core, 4.1GHz / HDD )

最も低スペックな構成で、古いCPUとHDDの影響により、プロセッサ(31.4 s)、I/O(29.1 s)、Simulation(29.7 s)で著しく遅い結果が出ている。Aと比べるといずれも2倍ほどの時間がかかっている。

結論:HDDはいますぐ卒業しよう。


AI対話用プロンプト

 最後に、AIで使うためのテキストデータを置いておく。これをコピペしてプロンプトを修正し、AIと対話しながら疑問を解消したり分析を進めてほしい。これによって新たな考察や気づきが得られたら是非教えていただきたい。

一方、AIはとても頑張っており、よく整理した回答を返してくれるものだと感心するものの、前述のグラフィックスをGPU性能のみで論じてしまう例など、専門性を持った人間の経験・知識と比べるとやや不足する点もある。CADや解析に関わるハードウェア構成で間違いのない選択やより深い議論をしたい場合は、専門性を持った人間がいるLenovoまたはデジプロ研にも是非ご相談いただきたい。

生成AIへのプロンプト参考

機種 CPU  CPUコア数 最大ブーストクロック メモリ VRAM ストレージ
A ThinkStation P2 Tower   i7-14700  20Core  5.4GHz  32GB  8GB  M.2
B ThinkStation P3 Ultra   i5-14600  14Core  5.2GHz  32GB  8GB  M.2
C ThinkStation P3 Ultra   i7-13700  16Core  5.2GHz  32GB  12GB  M.2+HDD
D ThinkStation P330     i7-9700  8Core  4.7GHz  32GB  5GB  M.2
E ThinkStation P330     i5-8500  6Core  4.1GHz  32GB  5GB  HDD

グラフィックス プロセッサ I/O RealView Simulation
A 17.7 s  15.4 s  15.5 s  17.5 s  15.8 s
B 17.6 s  17.1 s  15.5 s  17.3 s  17.3 s
C 18.4 s  18.5 s  21.0 s  19.0 s  16.1 s
D 20.0 s  27.1 s  20.9 s  19.0 s  22.5 s
E 20.1 s  31.4 s  29.1 s  17.9 s  29.7 s

以上の2つのテーブルはA~Eの5台の各ワークステーションのスペックとベンチマーク結果を示していますこれはSOLIDWORKSのパフォーマンスを測るベンチマークです
ベンチマーク結果であるグラフィックス、プロセッサ、I/O、RealView、Simulationの値は、各項目にかかった時間を示しているので、値が小さいほどこの性能が高いPC構成ということになります
最初に、各ベンチマーク結果がPCのどのスペックに関係しているか示してください
その後、各マシンの特徴をベンチマーク結果にもとづいて説明してください
全機種で差がわずかな項目はまとめて最後に理由とともにあげてください

筆者プロフィール

デジプロ研 CAD/CAEコーディネーター 太田 明
3次元設計/CAE導入立上げコンサルタント、元半導体製造装置エンジニア
大学での講義や、設計者CAE勉強会、Inventor & Fusion勉強会幹事など、設計者同士の学び合いを通して本当に使える3次元設計のノウハウを日々探求している。

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