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経営課題解決シンポジウム レポート

東日本大震災が残した企業におけるIT-BCPの教訓

TIS株式会社
執行役員 プラットフォームサービス本部 プラットフォームサービス事業部長
阿久津 晃昭 氏

2011年に起きた東日本大震災の記憶は、多くの人々にいまも鮮烈に残っていることでしょう。ビジネスの現場でも大小様々な混乱がありましたが、多くの企業はそこから教訓や気づきを得て、より強固な組織体制やビジネスプロセスづくりを進めています。代表的な分野がBCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)です。

とりわけITにおけるBCP、すなわちIT-BCPについては、従来の取り組みでは不十分と実感した企業が多いのではないでしょうか。SI・受託開発に加え、データセンターやクラウドなどサービス型のITソリューションを提供しているTISの阿久津晃昭氏はこう話します。

「東日本大震災後、応急的な措置としてDR(Disaster Recovery:災害復旧)強化施策を実施した企業も多いことでしょう。当時はスピードが優先され、全体を俯瞰した対応ができなかった面があるかもしれません。大震災から6年が経過し、改めて本格的なIT-BCPに取り組む企業も増えつつあります。多くの企業でシステム更改のタイミングは5、6年程度の間隔でやってきます。システム全体のリニューアルを機に、最新の技術やサービスを導入することで、質の高いIT-BCPを実現しようというお客様が増えています。システム更改のタイミングは、IT-BCP導入を検討する絶好の機会といえるでしょう」

IT-BCPに取り組む上で、阿久津氏が指摘する技術進化は非常に重要です。通信やハードウェア、仮想化技術などの発展は著しく、現在ではオープンシステムやクラウドなど低コストかつ効果的な選択肢が数多く提供されるようになりました。「これらITベンダーが提供しているサービスを活用することで、現実的なコストでIT-BCP対策が可能となってきました」と阿久津氏はいいます。

IT-BCPを検討する際の4つのポイントとは

では、IT-BCPの検討時には、どのようなことを考慮すべきでしょうか。阿久津氏が指摘するのは次の4つのポイントです。

第1に、「データセンターの立地と設備」。地震や火災などのリスク評価は当然ですが、現地で対応する人員の確保やハードウェアのパーツ供給などを考えるとアクセスも重要です。万一の場合に電力や燃料、ネットワーク回線が維持できるかどうかという点も検討が必要です。

第2に、「実現レベルと使用する製品」。災害発生時を起点に、過去のどの時点までデータ復旧を保証するかを示す2つの指標、RPO(Recovery Point Objective)と、復旧までの時間を表すRTO(Recovery Time Objective)がありますが、RPO・RTOは短いほうが望ましいといえます。しかし、理想を追求すればシステム構築コストは膨大なものになります。かつては回線コストやハードディスクの価格が高く手が出せないケースも多くありましたが、現在では適切に選択していくことで、現実的な選択肢として検討ができるようになってきました。

第3に、「災害発生時の運用体制」。例えば、発災後に遠隔地のデータセンターに切り替えたとしても、運用に当たる人員がいなければ意味がありません。また、正副のデータセンターの運用手順が異なっていれば、相互のサポートが難しくなるでしょう。いざというときすぐに機能するためには、人員確保や運用手順の共通化などを含めた体制づくりが不可欠です。

第4に、「業務を遂行するための環境」。非常時の状況把握や意思決定を支えるコミュニケーション環境、必要な情報やリソースにアクセスできるオペレーション環境を維持できるかどうかという視点も重要です。

DR実現を目指す企業にとって、ホステッドプライベートクラウドが現実解

先の第2のポイントについて、もう少し詳しく見てみましょう。DRサービスを基幹業務に適用する場合、大きく3つの選択肢があります。パブリッククラウドと、オンプレミス、ホステッドプライベートクラウドです。

まず、パブリッククラウド。平常時のバックアップとしては有効ですが、有事の際に必要な性能レベルを確保できるかどうかは、十分に確認しておく必要があります。また、どの程度の拡張性が見込めるかについて、自社にとって必要なレベルを勘案しつつDRサービスの内容を評価することになるでしょう。

次にオンプレミスです。そのメリットはオーダーメイドのDRシステムを構築できることですが、導入時、定期メンテナンス時のコストへの配慮が必要です。また、有事に運用体制を維持できるかどうかという視点も欠かせません。

3つ目がホステッドプライベートクラウドです。ホステッドプライベートクラウドでは専有環境が用意されるので、有事にも安定稼働を期待できます。サービス事業者側で運用を行うので、メンテナンスの負荷を気にする必要もありません。「DRを実現したいというお客様に対しては、ホステッドプライベートクラウドを提案するケースが多いです。安定稼働と運用負荷を抑えられる点などから、いまのところホステッドプライベートクラウドが現実解だと私たちは考えています」と阿久津氏。

オンプレミスが持つ柔軟性と管理性を備えたハイパーコンバージド・システムで、ホステッドプライベートクラウドの課題を解決

阿久津氏が現実解というホステッドプライベートクラウドですが、もちろん課題もあります。阿久津氏は、従来は3つの課題があったといいます。

「これまでのホステッドプライベートクラウドでは、『性能』『拡張性』『サービス改善』の3つの課題がありました。有事の際の『性能』をどの程度まで担保できるのか、どう『拡張性』を確保するためか、パブリッククラウドのような『サービス改善』をどう行っていくか、です。これらは当社のようなサービス事業者が対応すべき課題ではありますが、最終的にはお客様に提供する価値が変わってくるため、とても重要な視点だと思います」

こうした課題を解決するために、TISが導入したのがハイパーコンバージド・システムです。

「ハイパーコンバージド・システムは、従来のオンプレミスが持つ柔軟性と管理性と、スケールアウトのアーキテクチャによる拡張性を併せ持っています。また、ソフトウェアであらゆる機能が実装されており、ソフトウェアを更新することで機能の改善・追加ができるので、お客様に提供するサービスの改善もしやすくなります。その一方で、製品としての安定性も高く、非常に安定した運用が可能になっているなど、オンプレミスとパブリッククラウドの良い面を組み合わせた存在であると感じています」と阿久津氏。ハイパーコンバージド・システムはいま、TISのDRサービスを支えるバックボーンとして活用されています。それは、「TISの提供するDRサービスの質の向上につながっています」と阿久津氏はいいます。

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