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特集

ThinkStation P520c 完全検証

3D機械設計、図面作成、シミュレーションが高いレベルで統合されたオートデスクのプロフェッショナル向け3D CADソフトウェア「Inventor」。設計現場が2Dから3Dへとシフトする中で、ぜひとも活用したいソフトウェアの1つだ。

今回、オートデスクのユーザー会(AUGIjp)で活動し、CAD/CAEの導入・立ち上げのコンサルティングを手がけるデジプロ研の太田明氏がInventorを実務で活用するためのレノボ「ThinkStation P520c」の推奨構成を検証した。


3D CADの利用率は10%以下!? 遅れが目立つ日本国内の設計現場

2D CADソフトとして圧倒的なシェアを誇るオートデスクの「AutoCAD」。使いやすい操作性や長年培ってきたノウハウを背景に業界標準と言ってよいほど広く利用されている。ユーザー目線で見ても、「AutoCADが日本の製造業に果たしてきた功績は計り知れません」とオートデスクのユーザー会(AUGIjp)で活動する太田明氏は指摘する。

太田氏は、有機ELディスプレイ製造装置メーカーの設計開発部門でエンジニアとして11年間勤務し、3D CADやCAEの立ち上げをリードした経験を持つ。CADマネージャーやシミュレーションチームのリーダーとして辣腕を振るい、のちにCAD/CAEの導入・立ち上げのコンサルティングを広く行うため「デジプロ研」を設立した。CAD/CAEのエキスパートとして、3D CADの普及促進にも力を入れている。

そんな太田氏が危惧するのは、日本国内における2D CADと3D CADの利用率の大きなギャップだ。その比率は2Dが「9」に対し、3Dは「1」程度なのだという。

世界的な設計のトレンドが2Dから3Dへと大きくシフトしている中で、なぜ日本国内では、2Dから3Dへの移行が進んでいないのか──。その要因について、太田氏は、「3D CADソフトウェアとそれを支えるシステム投資に対する誤解が根強くあるからです」と語り、こう続ける。

「多くの中小製造業が、3D CADを導入して運用していくためには、莫大な費用がかかると思い込んでおられます。もちろん、一切の投資なく3D CADを立ち上げられるわけではありません。ですが、ハードウェアのコストパフォーマンスは以前に比べて劇的に向上していますし、投資を効率的に最適なかたちで行うことは十分に可能です。必要なのは投資を最適化するための検証と3D CAD活用の適切なガイドなんです」

P520cで「Quadro P」シリーズ4タイプを検証

こうした考え方の下、太田氏が今回検証したのはレノボのコンパクトワークステーション「ThinkStation P520c」だ。検証の主な目的は、3D CADソフト「Inventor」を実務で問題なく稼動させるためのThinkStation P520cの推奨構成を探り当てることだ。

ThinkStation P520cは、コストパフォーマンスに優れたワークステーションであり、CPU性能を上位機種に合わせつつ、あえて拡張性に一定の制限を設けることで導入の敷居を下げている。

太田氏は、ThinkStation P520cの検証に当たり、CPUとして4コアの「Xeon W-2123」、6コアの「Xeon W-2133」を選択した。そのうえで、グラフィックスボード(以下、グラフィックスと略す)の「Quadro P600」「同P1000」「同P2000」「同P4000」の4つを差し替えて、それぞれについてベンチマークを実施した。ベンチマーク環境は、以下の構成である。

表1:検証に用いたハードウェア構成

ハードウェア

ThinkStation P520c

OS

Windows 10 Pro

CPU

Xeon W-2123(4コア,3.6GHz-3.9GHz)

Xeon W-2133(6コア,3.6GHz-3.9GHz)

メモリ

32GB(DDR4 8GBX4)

グラフィックス

Quadro P600、P1000、P2000、P4000

ディスク

SATA SSD 480GB

ソフトウェアに関しては、Inventor(「Autodesk Inventor Professional 2019」)に対して、ベンチマークツールの「Inventor Bench 1.5.3.0」による検証を実施した。また、複数の3D CADやシミュレーション環境での動作を確認するために、同じハードウェア上で、「SOLIDWORKS」アドイン型のCAEソフトウェア「Particleworks for SOLIDWORKS」の動作検証も行っている。

太田氏に対してよく寄せられる質問や誤解として、
「3D CADのために、どのくらい高性能なマシンを用意すれば良いのかわからない」、
「グラフィックボード性能は高ければ高いほうがよいはず」、
「メモリやグラフィックスが弱いワークステーションでは大規模環境で作業できない」、
「3D CADだけでなくCAEも含めて実施する場合のワークステーションのスペックが見えない」、
といったものがあるという。

今回のベンチマークはそうした疑問や誤解に対する一つの回答として、3D CADの実務に耐えうる構成を検証することを目的としたものである。


GPUはP1000、コアは4コアで十分

太田氏には、さまざまな3D CAD環境の立ち上げにかかわってきた経験から、グラフィックスやメモリには、必ずしも最高レベルのスペックが必要とされるわけではないと語る。今回のベンチマークの結果は、それを裏付ける格好になった。

図1がInventorによる3D CADのベンチマーク結果である。

ベンチマークとしては、「モデル更新にかかった時間(Total Modeling Time)」「モデル回転にかかった時間(Total Graphics Time)」「図面作成にかかった時間(Total Drawing Time)」の3つの値について、Pシリーズの4モデルを、4コア(W-2123)と6コア(W-2133)環境で確認した。

図1:GPUベンチマークの結果

まず、4コア環境では、P600とP1000以上とで顕著な差が見られたが、P1000以上は、値に大きな差は見られなかった。このことから、「4コア構成でのGPU選定は、P1000が望ましく、P1000以上になると、性能上のボトルネックがGPUから他の要素に移っている」という結論が導き出されたという。

次に6コア環境だが、4コア同様P600とP1000以上とで顕著な差が見られるもののP1000以上では値に大きな差は見られなかった。しかも、4コアと6コアとの間でも大きな性能差は見られていない。

そのため、「CPUコア数はグラフィック性能のボトルネックに影響を与えておらず、この機器構成では4コアで十分であることが判明しました」と太田氏は言う。


複数CADやシミュレーション環境でも安定動作を確認

(イラスト注釈)Particleworks for SOLIDWORKSをフル稼働させて動作を確認。48時間以上安定して計算結果を出力し続けた。

実際の現場では単一のCADを使用するだけでなく、複数のCADやシミュレーションも併せて行っているケースが多い。そこで太田氏は今回、「SOLIDWORKS」アドイン型のCAEソフトウェア「Particleworks for SOLIDWORKS」を使い、ThinkStation P520c のCPUに100%の負荷をかけた状態で48時間連続稼働させて動作を確認した。その結果として、ThinkStation P520cについて判明したことは下記の3点に集約できるという。

  • (1)SOLIDWORKSおよびParticleworksともに安定動作が確認できた

  • (2)長時間のCPU負荷にも耐えられる安定した熱設計であること

  • (3)稼働時の音はまったく気にならないレベルであること

さらに、Particleworksの計算実行による高負荷状態でInventorの各動作速度を測定したが、図2のように、CAEを同時に使用してもCADの処理性能を大きく損なうことはないことが確認されている。

図2:CAE負荷テストの結果

以上の結果から、太田氏はInventorユーザーに対するThinkStation P520cの推奨構成を以下のようにまとめている。

図3:Inventorユーザーに向けたThinkStation P520c 推奨構成

OS

Windows 10 Pro

CPU

Xeon W-2123(4コア,3.6GHz-3.9GHz)

メモリ

8GB

(中規模~:16GB)

(大規模~:32GB)

グラフィックス

Quadro P1000

ディスク

SATA SSD 256GB

参考上代価格

28万円(税別)

一般的に多くのCAEツールではCPUコア数が多いほど性能が上がるが、CADのモデリングに関しては4コアで問題なく稼働することがこの検証結果でも確認された。さらに太田氏は、この構成のポイントを次のように補足する。

「3D設計には、4コア3.6GHzで十分ですが、シミュレーションやレンダリング性能を少しでも上げたい方には、コア数増やクロック増をお勧めします。メモリ容量は、扱うモデルの規模によりますが、まずは8GBからはじめて、不足したら追加すれば良いでしょう。

SSDですが、3D設計の場合、ファイルはデータ管理サーバに保管するのが通常ですから小容量で構いません。また、ファイルオープンのボトルネックはSATA SSDで解消できます。これでボトルネックはCPUに移りますので、基本的にはM.2 SSDまでは不要です。

ただし、起動時間の短縮や解析結果などの大きなファイルにはM.2 SSDは威力を発揮しますので、ストレージは容量を小さくしても最低でもSATA SSD、予算に余裕があればM.2 SSDという選び方をおすすめしています。」


なお、グラフィックスの性能を上げても、ベンチマーク結果に顕著な差が見られなかった理由について、太田氏は、Inventorが多様な設計者の負担を減らすために、様々な仕掛けをCPU側に持たせている点を挙げる。「この特性を知ることで、Inventorでは、Lenovo ThinkStation P520cのようなスタンダードなワークステーション用のCPUで、大規模なアセンブリにも十分に対応可能であることが確認できました(図4)。これはすなわち、3D CADの立ち上げにおいては、高価でハイスペックなワークステーションを当初からそろえる必要はないということです。浮いたコストは勉強会への参加や立ち上げ支援に回すのが3Dへの移行を成功させるコツなのです」(太田氏)。

図4:InventorにおけるGPUの選び方

上のように語ったうえで、太田氏は話の最後をこう締めくくる。

「今日の市場には、Lenovo ThinkStation P520cのように高性能で安定し、コストパフォーマンスにも優れたハードウェアがあり、Inventorという3D機械設計のための強力なソフトウェアがあります。

しかも、それを補う各種CAEソフトやノウハウを持った人材も増えてきており、私たちが3D設計を行うための下地は十分に整っています。今回のベンチマークを参考に、ぜひ3Dにチャレンジしていただきたいと願っています」


デジプロ研 (Digital Prototyping Laboratory)
CAD/CAEコーディネーター
太田 明氏

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